コンサート評 畠山美由紀

サイン入り会場限定CD

 先日の日曜日(7月21日)草月ホール畠山美由紀のコンサートを観て参りました。「観て」というより「聴いて」というほうが正確です、と言いたいほど、演奏と歌声を楽しめるコンサートでした。
 バンドはアコギ、ピアノ、女声コーラス1名、そしてチェロという少し個性的なもの。演奏はとても豊かな響きで(そして、非常に上手)、シンガーの歌を見事に引き立たせていました。
 僕は畠山美由紀さんについては最近ファンになったんですが、後追いで聴いた過去の作品は(ダブル・フェイマスなども含めて)バックも歌も技巧的なものがありました。なんですが、最近の作品は実にシンプル、この日もそのムードを踏襲した内容で、僕には心地よいものでした。基本的なプログラムは最新作「rain falls」からのものでした。僕はこのコンサート時点で最新作は未聴だったんですが、どの曲も聴かせるものでした(さっそく翌日買っちゃいました)。雨がコンセプトの作品だからか、しっとりした感触でしたね。ご本人も「ラジオ番組などでは『今日はさわやかに晴れでおでかけ日和ですね!』なんて話すんですが、実は雨の日が空きなんですよ」なんてカミングアウトされていました。雨が好きというのはよくわかる感覚ですので、共感しきりです。あのCCRの「雨を見たかい」を、しっとりしたアレンジで歌ってくれたのもよかったです。
 ところで、この日のコンサートの楽しみは歌と演奏だけではありませんでした。曲間にはいるMCがまた楽しいのです。とはいっても「流暢」という意味ではありません。お話しのムード、語り口が実に「気さく」というか「素朴」というか、なんとも言えない和やかなもので、そっちも楽しめました。元々僕は彼女がパーソナリティを務めているFM横浜の番組(土曜の午前11時からやっている「Travelin’ Light」)をきっかけにファンになったんですが、その番組でのトークがまさにそういう感じで、そういう出自(?)のファンにとっては「あのトークが生で聞けている!」という感動さえ味わえました。歌っているときの真剣さとのギャップがチャーミング。特にギャグっぽいことを話すわけでもなく、静かにお話ししているだけなのに会場が暖かな笑いに包まれる瞬間が多々あったのは、僕のように感じてらっしゃる方が多かったせいかも知れません。
 コンサートでは「わが美しき故郷よ」からも数曲歌ってくれました。彼女は宮城県出身なので、あの大震災を踏まえてのパフォーマンスや曲間のお話しには重みがありました。「その町の名前は」が生で聴けて大感激。欲を言えば「花の夜舟」も聴きたかったな。でもあれはちょっと季節が違うかしら(笑)?
 この日のアンコール1曲めは「ハレルヤ」。あのレナード・コーエンのカヴァー。BSのドラマエンディング曲として録音され、その後フルコーラスバージョンが配信でリリースされていたものですが、当夜のバンドによる演奏は配信バージョンよりも説得力のあるものでした(配信バージョンはエレクトリック・ギター1本がバック。これはこれで素晴らしいですが)。染み入るような歌、静かに聴き入る聴衆という姿はあのジェフ・バックリィの来日公演での同曲を思い出させるものでしたが、同じように静謐なものであっても、この日のこの曲にはジェフのものよりずっと暖かい印象を感じました。これがアーチストの持ち味の違いなんでしょう。
 午後5時開演のコンサートは7時に終了。本当にあっという間で「え、もう終わり?」と時計を見て初めて2時間経ったことを知ったほどでした。歌や演奏からはもちろん、MCや物腰も含めて、暖かく濃密なコンサートでした。こういうコンサートを聴くと、生の演奏の偉大さを強く感じますね。またぜひ足を運びたい、そんな気持ちになれるコンサートでした。

rain falls

rain falls

注:上の写真は(小さくてすみません)コンサート後のサイン会でサインしていただいたCD。「ハレルヤ」の会場限定CDです。