70歳を超えたポールがまた新しい山に登る

 ポール・マッカートニーのニューアルバム「NEW」、聴きました。先行シングルがビートルズ風で、事前情報もそういうものだったので、どんなものなのか若干の予断を持ちつつ聴きはじめましたが…。
 結論から書きますと、そんなにビートルズ的な内容ではありませんでした。シングル曲が突出してソレですが、それにしたって想定範囲内かな(これはキャッチーな佳曲です)。冒頭アップテンポの曲で驚きますが、非常にアグレッシヴで嬉しくなっちゃいました。そこからアルバムは続きますが、基本的には現代的な音作りのなか、ポールにしてはいくぶん苦い感触の曲が並んでいます。「Memory Almost Full」がカラフルで親しみやすいアルバムだったのに対して、今作はもっと渋い印象でした。デイヴ・グロールとのおつきあいなどがあったのでもっとグランジ的な歪みを感じるようなものが多いかと思っていましたが、それはさほどでもなかったです。4人もいるというプロデューサーですが、凝った音作りのものもありましたが、ポールを素材に「勝手に作りこんだ」という感じではないのはよかったです。
 僕が一番気にかけていた(「Kisses On The Bottom」で気になった)声の衰えですが、今回は気になりませんでした。声の全盛期(70年代)と比べればそりゃいろいろありますが、これはこれでいい、「Kisses〜」よりも今作のほうがずっと本来のポールらしい音楽で、そのなかで聴こえる彼の声にはなんの違和感もありませんでした。全盛期に届かない部分も含めて「今のポール」として受け入れられるという感じでした。
 それにしてもすごいなあと思うのは、そしてポールの新作に触れるたびに思うことですが、音作りも音楽も「以前受けたもののパート2」には聴こえないというところです。しかも「以前と全く違ったもの」というわけでもないのです。ちゃんとポール・マッカートニーの音楽であり、ファンにとっては長年親しんだあの感触があり、しかもルーティンではないというところ、本当に不思議です。きっとポール本人としては、強く意識してやっているのはないのかも知れません。だからこそ僕は驚き感動します。71歳にしてこれが可能だなんて、と。
 愛すべき「Early Days」と「NEW」が終わった直後にまるで「Pretty Little Head」のような「Appreciate」が始まるところなど本当にスリリング。安定しているようで全然安心させてくれないポール・マッカートニー。いつだって想定外の天才。これこそ僕が愛するポールです。「Memory Almost Full」もいい作品でしたが、今作もそれ以上の内容でした。いよいよ来月は久しぶりの来日公演(ドーム行きますぜ)、これはまたとない「来日記念盤」です。

NEW

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追記:ラストで「来日記念盤」と書きましたが、国内盤にその表記がなかったのが幾重にも残念!こんな素晴らしいタイミングでのリリースなのに!