コンサート評モルゴーア・クァルテット 2月10日東京芸術劇場

 昨日(2月10日)、モルゴーア・クァルテットのコンサートに行って参りました。会場は東京芸術劇場
 今までもたびたびコンサートで採り上げ、アルバムまで出しているロック編曲でその筋には非常に有名なモルゴーア、今回はそのプログレッシヴ・ロックものだけを演奏する「オール・プログレ・プロ」とでもいうべき内容。すべてをロックの曲だけで構成するコンサートは彼らにとっても初めてだったそう。
 内容は「太陽讃歌」「原子心母」(ピンク・フロイド)、「危機」「同志」「シベリアン・カートゥル」(イエス)、「悪の教典#9第一印象パート1」(ELP)、「21世紀のスキッツォイドマン」(キング・クリムゾン、以上本編)、「堕落天使」(キング・クリムゾン、この曲はアンコール)というもの。見事にすべてプログレでした。
 この日の目玉は世界初演となる「危機」。あの名曲を、本当に弦楽四重奏で奏でてしまいました。編曲は「吉松版タルカス」に一脈通じるような「原曲を大切にした」ものでした。演奏は非常にアグレッシヴで、後半特に「荒い」と感じる部分が多かったのは初演だからというよりも生演奏だったからという理由かも知れません。後半2曲(「シベリアン・カートゥル」も含めて3曲か)はリズムも揺れアゴーギグも極端でしたが、それは演奏の熱さに比例している感じでした。全体的にみても、進行するにつれてだんだん熱くなるという感じでした。プログラムの半分がなんらかの形で「初めて」というものだったせいか、ある種の「危うさ」があって、それが独特の緊張につながってくれていたようで、言うまでもないでしょうがコンサートの質を高めてくれていました。全体に「端正な前半、熱い後半」という感じで、特に本編の最後2曲は長く演奏している曲だったのでノリノリ(?)でした。
 曲のあいまには第一ヴァイオリンの荒井英治氏によるMC(?)がありましたが、これが非常に面白いものでした。僕より数歳上の荒井氏はプログレの大ファンでそちら方面の造詣も深く、曲の解説も「お勉強して頭に入れた知識」ではなくロックファンの琴線に触れるものでした。で、ほぼ満員のお客さんもいちいちそれに反応して喜んでいたので、そういう人ばっかり集まったんでしょうね昨日は(笑)。「危機」で第一部が終わって第二部の「同志」開始前には「ここからLPのB面です」と始めたり、ピンク・フロイドの 初来日が箱根アフロディーテだったと紹介したり、「危機」全曲演奏の紹介で「CDのボーナストラックはないんですが」とつけくわえたり、次のアルバム(5月に、今なにかと話題の日本コロムビア(笑)から出るそうです)にジェネシスの曲が収録されるという話題で「Selling England By The Pounds」を思いっきり褒めちぎったり(会場大喝采)、もうね次に「題名のない音楽会」でロックを取り上げるときは絶対荒井氏に出てもらいたいと思えるほどの「ちゃんとしたロックファン」ぶりでした。
 ジャンル越境ものはどうしても批判的な論評を受けがちです。実際しょうもないものも多いですからしょうがないとは言えますが。モルゴーア・クァルテットのこうした活動にも賛否があります。ただ僕はロックファンのひとりとして、ここまで継続してやってくれるなら文句ないと思っています。実際今までCD「Destruction」「21世紀の精神正常者たち」で聴いてきた音楽はいいものでしたし、昨日のコンサートも素晴らしかった。弦楽四重奏というクラシック分野でも制約の多い編成で、プログレッシヴ・ロックという内容も構成もフレーズも盛りだくさんの音楽を演奏するのには強いモチベーションが必要だと思いますが、それを確かに感じることができました。そしてそれは間違いなく、ロックという音楽に対する愛情があったればこそでしょう。その意味で僕は満足です。第一肝心の演奏がちゃんと質の高いものだったわけですから文句があるはずありません。昨夜のコンサートはそれを実際に確認できたという意味でも僕には大事な体験でした。6月には浜離宮朝日ホールで行われるという定期演奏会も行こうかな?

21世紀の精神正常者たち

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