浅田選手へ、ありがとう、お疲れ様でした。

 ソチ五輪、ドラマチックすぎる女子フィギュアが終わりました。
 結果はみなさんご存じのとおりです。初出場で健闘してくれた村上佳菜子選手、2大会連続入賞、低年齢・高技術傾向の流れのなか大人のスケーティングを見せてくた鈴木明子選手(この人が3人のなかで一番安定していましたよね)とも、実りの多い演技だったと思います。
 そして浅田真央選手。
 口さがない人たちの間では「メダル割り振りのシナリオがあったのではないか」と噂されているけれど(毎回立つねこの手の噂)、浅田選手の演技こそ、なにか筋書き…神の書いた筋書きがあるんじゃないか、そう思ってしまうような劇的すぎる2日間でした。
 我が家は夫婦揃ってSP、フリーともテレビ観戦しましたが、SPの後とフリーの後では雰囲気も会話も全然違いました(翌朝のテレビももちろん、と言いたいですが、なぜかSPの翌朝は演技ノーカットで、フリーは端折っているものが多かったのは僕の主観かしら?時間が長いから編集した?でもそれじゃあ伝わらないよね)。
 SP16位は正直悔しいです。 そのせいで上位争いから脱落してしまい、滑走順の関係で演技構成点などが伸び悩んだかも知れません。そういう意味では彼女の演技としては不本意だったし、バンクーバーのリベンジという意味からも辛いものになってしまいました。それは受け止めるべき事実です。
 あのSPからたった1日で気持ちを戻し、フリーでノーミス、盛り込むべき要素をすべてクリアしたことは、とんでもない偉業だと思います(そんな選手、今までいたか?)。 なにしろ10人抜きの6位入賞、フリーだけなら銅メダルです。ビートルズだったら「Abbey Road」のA面をあまり気に入らなかったのにB面が最高だった!とかいう感じかしら違うかしら(笑)。とにかくこの日の上位の「出て当然のインフレ高得点〜メダル争い」とは次元も意味も違う「神演技」でした。 なにより演技後、彼女の笑顔からも涙からも、バンクーバーのときのような「憑き物」がなくなってくれたこと、それに尽きます。
 このシーズン、浅田選手の出来はよかったです。そのとき妻と話していたのが「真央ちゃんが目指しているのは他の選手とは違う。彼女が目指しているのは順位やメダルじゃなく、バンクーバーではできなかった「ノーミスで演技する」ということに違いない。そのために彼女は3年努力してきたんだ」ということ。
 僕達夫婦のこの会話が当たったなんてうぬぼれてはいません。 でも結果的に、彼女の首にメダルはかからなかったけれど、ある意味それ以上のものが与えられた、いや(彼女が自分の力で)獲得できたんだと思っています。 たぶん大勢の人が、同じ気持ちなんじゃないかな?
 浅田選手のフリー神演技にはたくさんの人が賞賛の言葉を口にしています。 有名無名を問わずみんな気持ちのこもったものですが(僕の友人たちもSNSツイッターでたくさんアップしていました)僕が感動したのはあのミシェル・クワンのツィート。 「Mao Asada made me cry a performance that we will all remember forever!」というもの。
 長野で素晴らしい演技を披露しながら五輪ではついに金メダルに届かなかったミシェルには、浅田選手のバンクーバーからソチまでの道のりが誰よりもわかるのかも知れません。 個人的なことですが、僕は長野でのミシェルの演技を観て生まれて初めて「スパイラルやシークエンスってこんなに美しいんだ」と知りました。僕のフィギュアを見る目を変えてくれたのがミシェルだったので、このツィートは心から感動しました。
 僕は常に「スポーツは1位の人間が最も賞賛されるべき」と考えている者です。だから今回の競技でメダルを獲得した3人の選手は諸手を挙げて賞賛します。 それでも昨日の浅田真央選手の演技は、その日演技したどの選手よりも輝いていたと信じています。 それは本当に「神様が仕組んだ」ような、特別な時間でした。
 日本選手のみなさん、お疲れ様でした。
 そして浅田真央選手、素晴らしい演技と素晴らしい時代を我々にくれたことに感謝します。現役続行かなんて報道もありますが、ここが大きな一区切りであることは間違いないでしょう。心から喝采を送ります。