永遠の新人ボブ・ディラン(4月5日コンサートを観て)

 永遠に新しい…。
 4月5日のボブ・ディランのコンサートについての僕の感想は、突き詰めるとこの言葉に尽きます。
 休憩を含めて約2時間のコンサートは、基本的には4年前の意匠を踏襲したものでしたが、ディランのお声の様子が前回以上によく、力強く感じられました。演奏ももちろん素晴らしく、テンポや音量、基本的なアレンジは前回と同様でしたが、よりソリッドな印象でした。
 そしてセットリストに、今のボブ・ディランの本質がよく現れていました。最新作「Tempest」や21世紀になってから発表されたものが多く、まるで新作プロモーション・ツアーのよう。そしてもちろん、その「新作」からの曲も「まんま」ではありません。それは「現在の」ディランという表現よりももっと切実でリアルな「今この瞬間の」ディランでした。この「常に今に存在する」感覚、これこそがあの偉大なポール・マッカートニーローリング・ストーンズもまったくかなわない、ディランの偉大さ・巨大さです。4年前に観た時よりもさらにリアル感が増していて、なんだか不気味なほどです。「ブルーにこんがらがって」「運命のひとひねり」「見張塔からずっと」「風に吹かれて」などの名曲群も、過去の決定版的アレンジなど意にも介さない「今」の演奏。それでいて満員の観客の誰にも不満を抱かせない力を持っていました。
 ボーカルも、そして(前回同様)ハーモニカも良かったですが、特筆すべきはピアノ。かなりの曲でピアノを弾いたディランですが、なんというか不思議な違和感と魅力を湛えた音色と演奏。特異な音空間がさらに独特のものに感じられるような、ある意味実に彼らしいピアノでした。
 本当に、この人は偉大でした。過去に大活躍した大御所としてではなく、「今のアーチスト」として、偉大でした。そんなことは4年前にもわかっていましたが、今回もまた、思い知らされました。次もきっと、そう思い知らされるでしょう。

サイド・トラックス(紙ジャケット仕様)

サイド・トラックス(紙ジャケット仕様)

 追記:このブログで僕は普通、曲名やアルバム名を記すとき原題表記していますが、ディランを採り上げるときときはなぜか邦題で書いてしまいます。ディランの邦題って魅力的なものが多いですよね。「見張り塔からずっと」なんて本当カッコイイと思います。
 追記その2:最近の海外アーチストのコンサートは、写真撮影についてあんまりうるさく規制しなくなりましたが、この日はコンサート開始前から撮影禁止のアナウンスがあり、その旨を強調した掲示もありました。ちょっと「ディランらしいな」と思っちゃいました。スポンティニアスな体験としてのコンサートの場で場違いな振る舞いをするなよと、ディランに注意されたような気分でした。