ハイレゾの喜び ザ・フーのファンって幸せ

 数日前、フェイスブックに「ハイレゾの『Live At Leeds』がすごい」という投稿がありました。ある高名な評論家の方が書かれていたものです。「これまでのエディションでは省略されていたMCがある」「曲順が当日のライヴどおりになった」「欠落していたと言われていたジョンのボーカルが復活している」など、ファンには気になる情報満載の投稿。紹介されていたのは外国のサイトでしたが、探したらe-onkyoのサイトにもあったので(たぶん投稿のものと同じと勝手に判断し)DLしました。
 まだ数回聴いただけでどこがどう変わったのかまでは理解できていないんですが、一聴わかるのは「空間が広くなった」という印象です。元々音の密度の高い(というか、中域に音が詰まったような)音源でしたが、その音と音の間に空間が生まれたような感じ。音の感触そのものはオリジナル・アナログから変わらないんですが、広々としたところでかなりの大音量で演奏していることがはっきりわかるようになった、そういう感じです。
 僕が一番印象深いと思ったのは、曲順が当日どおりになったことで、コンサートの流れがスムーズによくわかるようになった点です。この曲順で聴くと、当日の目玉が(当時最新作だった)「Tommy」だったことがよくわかりますし、「Summertime Blues」からが終盤の盛り上がりで、「My Generation」がその日のコンサートのハイライトを追体験(総括)、アンコールの「Magic Bus」で完全燃焼ということが、こちらも体験しつつ腑に落ちます。改めてこのころのフーの巨大さがわかります。
 ところで、最近よく聴くザ・フーの音源があります。「四重人格」のブルーレイ・オーディオ。ものすごくいいです。音に関しては過去最高といっていいものですが、ただそれだけではなく、細部がいじってあるんですよね。すでに10年以上前のリマスターCDで編集し直しがありましたが、今回も違ってきている。
 いつも思うんですが、ザ・フーの音源って再発のたびになにか改変があって、それが「よけいなこと」にならず、ちゃんと「作品に相応しい」ものになっているのがすごいです。作品を出した時は様々な理由で成し得なかった「作品本来の姿」を求めているかのように。大体評価の定まったクラシック作品を編集で改変すると変なものになることが多いんですが、フーの場合はそういうことがありません。逆に編集や改変により、作品はアップデートされ、現代の作品として聴けるものになっているようです。
 いわゆるクラシック・ロックの名作といわれるアルバムなどは旧譜市場があって、オリジナルのアナログ盤を最上とするヒエラルキーがあります。僕はビートルズファンでもあるのでよくわかりますが「オリジナル盤(しかもモノ盤)の音が一番いい」という説が強い影響力を持っています。他の60年代組、70年代組にも同じようなことがいえます。それに対してザ・フーの場合は、リマスターやデラックス・エディションで再発されるものが確実に良くなっているという、ちょっと不思議な特性を持っています。「四重人格」はオリジナル盤も持っていますが、明らかにブルーレイ・オーディオのほうがいい。「Live At Leeds」と同じく、アナログやCDでは窮屈そうだった音楽がのびのび本来の姿で躍動しているように感じます。
 若い音楽ファンから「なにを聴いたらいいですか」と問われたら、ザ・フーに関しては自信を持って「今出ている最新のものを聴いて」と言えます。滅多に見つけられず価格も高いオリジナル盤やレア盤はマニア向け、音楽なら今のものが最高。これってものすごく健康的だと思います。そしてこれは強調して言いたいですが、これは誰でもできることではありません。ザ・フーの作品が真剣に作られたものだからこそ、そしてピート・タウンゼントのセンスが、時代や地域を超越したものだったからこそのことだと思います。つくづく思います。ザ・フーのファンって幸福だなあ。

Quadrophenia (Original Studio Album)

Quadrophenia (Original Studio Album)