DVDレビュー ザ・フー「Live At Shea Stadium」

 ザ・フーの新しい映像コンテンツ「Live At Shea Studium1982」入手しました。
※今はこれ「シェイ・スタジアム」っていうんですよね。でもたぶん僕はオヤジ手クセで「シェア・スタジアム」って書いちゃうと思います。予めお詫びしておきます。
 例のサヨナラツアーのもので、このツアーはトロントでのコンサートが商品化されていましたし「Who’s Last」もありましたので「すごく新鮮」というものではありませんが、ツアーのハイライトだったものですので当然ファンとしては嬉しいリリースです。内容はどうなっているでしょう?
 以前出ていたこのツアーのコンテンツ(上記の映像作品とライヴ・アルバム)に比べて演奏のミックスは低音を効かせるようになっていて、ずいぶん聴き応えが変わりました。特に以前のものではポコポコととても軽い音で収録されていたケニー・ジョーンズのドラムが大きく改善されていて、彼の演奏の本来の魅力がわかるようになっています。キース・ムーンと比較されてアレコレ言われる一方ばかりで可愛そうだったケニーですが、このコンテンツでの彼がバンドのボトムをしっかり支える才能豊かなドラマーであることがよくわかります。それだけでも僕には「買った甲斐があった」変更でした。
 険悪だったというピートとケニーですが、このコンテンツではアイコンタクトを取りつつ演奏を繰り広げています。ただ、全体的にピートは表情の振幅が激しく、非常に醒めた顔つきをしている瞬間もありました。そのへんを切り取って作品論を組み立てることも可能かしら?僕は全体の「熱さ」を採りますが。
 「Who’s Last」ではどういうわけかケニー時代の曲が収録されていませんでした。で、トロントものの映像でもそうでしたが、今回のものでも、そのケニー時代(「Face Dances」「It’s Hard」)からの曲の出来がとてもよかったです。特にジョンの作品「Quiet One」「Dangerous」は素晴らしい!「Cry If You Want」「Eminence Front」などはちょっと信じられないような切れ味で、どうしてこれが未収録だったのか、これが収録されていたら80年代のザ・フーの評価は変わっていたのではないかと思えるほどです。このコンテンツがきっかけで、そういう再評価がされるといいな。
 ロジャーも素晴らしい。トロントでは若干疲れているのかボーカルが時々弱くなってしまっていましたが、ここでは素晴らしいボーカリストぶりです(一体誰が彼を低く評価していたんでしょうかね)。
 ただしこのコンテンツにも弱点というか「?」という部分があります。もうアマゾンのレビューなどで複数の方が指摘されていることですが、会場の歓声がほとんど収録されていないこと。そしてもうひとつ、カメラワークがステージ中心なので観客席、巨大なステージ全景がほとんど映らないこと。このために臨場感が大きく損なわれてしまいました。これは残念。演奏のレベルも選曲も、記録という意味でもトロントを大きく超えるものだけに幾重にも口惜しいですね。「Baba O’riley」の大合唱も低いんですからこれは文句言ってもバチ当たらないと思います。
 それでもこの映像作品は観る価値大いにありです。キースの偉大さ故か不当に低く(あるいはいいかげんに)評価されていたこの時代の演奏が、ちゃんと見事なものだったことが、以前のコンテンツよりももっとはっきりとわかるようになっているからです。ここにもザ・フーの本質はある。これを観てピンとこないようなら、その人はそもそもザ・フーとご縁がなかったのでは?そう思えるような作品です。僕は従来この時期の彼らが好きなために若干贔屓目かも知れませんが、心からファンの方にはお薦めできるものです。

ザ・フー / ライヴ・アット・シェイ・スタジアム 1982【日本語字幕付: DVD】

ザ・フー / ライヴ・アット・シェイ・スタジアム 1982【日本語字幕付: DVD】

 追記:恒例の「ロジャーのトチリ」今回気づいたのは3ヶ所。「Behind Blue Eyes」と「Long Live Rock」それぞれ演奏の中間あたりで、そして「Won't Get Fooled Again」のラストの2行のところで歌うタイミングを間違えます。以前の映像コンテンツにも(ほぼ)必ずあったことで、日本公演でもありました(ソロ公演でも)。でもこの人、こういうのをカットしたり編集したりしないんですよね。本当にロジャーっていい人だなあって思います。
 追記2:1982年ごろのザ・フーは日本では人気がなく、ツアーの模様などはほとんど報道されていませんでした。そんななか貴重な記録があります。「ロッキング・オン」1983年1月号。この号に、シェア・スタジアム両日程を実際に観た日本人の投稿が掲載されています。この方はたぶんその当時米国に住んでいたのではないかな、ツアーに先立つプロモーションの話題もあり、この時バンドが置かれていた状況などにも思いを馳せた、熱心なファンらしい素晴らしい内容です。この文章を読んでいたおかげで、このときアンコールにビートルズナンバーを演奏したことも当時から知っていました。今もこの号は持っています。ちなみのこの号には、このツアーでオープニングアクトを務めたクラッシュへの取材記事も掲載されています。NME記事の翻訳で、当時のイギリスのマスコミらしく、部分的には非常に(フーに対してもクラッシュに対しても)失礼な内容になっていますが、そういう部分も含めて当時の空気を伝えてくれます。