shirop的2015年ベスト10(洋楽編)

 今年もやります。私的「2015年ベストアルバム」。今年も昨年同様、むしろ昨年以上にいい作品が目白押しでした。惜しくもランク外になった作品、購入が間に合わずまだ聴けていない(でも世評は高い)作品もたくさんありました。そのなかで、あくまで僕個人の視点ということですが、ベスト10を選んでみたいと思います。カウントダウン形式で、ではまず…。
 第10位:リンゴ・スターPostcard From Paradise」。やりました、我らがリンゴ・スター。ここ数年の名作ラッシュのなかでも頭一つ抜けたキャッチーさ。ほのぼのとした持ち味はそのまま、ソリッドな印象さえ与える演奏と歌声は、彼が今も現役ロッカーであることを物語っています。前作までは「マンネリかな」と思っていた「リヴァプールもの」ももうすっかり定着して、これはきっと後世の研究家にとって恰好の「史料」になるでしょうね。今年はボブ・ディランほかベテランの活躍がありました。それを代表してランク入りです。
 第9位イベイー「Ibeyi」。キューバの2人姉妹のデビュー・アルバム。なんともいえない厳かさと、単にエスニックとは片付けられない不思議なビート感に乗って流れていく、型にはまらない和声と歌唱が独特の音楽。まだ完成してないというか、どこか危ういもろさのようなものも感じますが、それも含めて初々しい美しさに満ちています。来年早々来日もしてくれるというイベイー、これから見守っていきたい才能です。今年もたくさん出てきた新人を代表して第9位を。
 第8位マムフォード・アンド・サンズ「Wilder Mind」。長く音楽を聴いていると時に体験できる、アーチストが「化ける」瞬間。マムフォード・アンド・サンズにとってこのアルバムはまさにそれです。トレードマークだったマンドリンバンジョーなどをいったん封印し、より「一般的なバンド」然とした音楽を奏でています。楽曲もそれに合わせるようにキャッチーなものになりました。従来のファンには賛否あると思うし、「Babel」でファンになった僕も一抹の戸惑いはありますが、これは大衆音楽としては正しい進路でしょう。テイラー・スウィフトが「カントリー畑の可愛いイモ姉ちゃんアイドル」から「1989」の歌姫になったように、不変の根っこを堅持しつつの前進。ジャケットが物語るように、確固たる「自己」を持ちながら、アーバンな風景を見据える度胸と覚悟。断固支持します。
 第7位ヴィンテージ・トラブル「1 Hopeful Rd」。インパクト最大級のデビュー・アルバムに比べると若干落ち着いたのかな?と思うところもありますが、それはあの破格のアルバムと比べるとなのであって、単体で聴けば十分賞賛に値する名アルバム。ファーストよりソウルフル、そしてぐっとクラシックなR&B寄りです。2014年のサマソニ、炎天下のマリンでスーツの色が変わるほど汗びっしょりになってのパフォーマンスを体験した者にとっては、力いっぱい抱きしめて愛でていたいアルバムです。
 第6位フォール・アウト・ボーイ「American Beauty/American Psycho」。グッとシリアスさと現代的なテイストを増してきた前作から約2年。彼らもまたアメリカの現状を題材に音楽を紡いできました。スザンヌ・ヴェガのラインを使いながらの曲や映画「ベイマックス」で使用された曲などはありますし、ノリのいい曲も多いですが、全体のムードは重いもの。単に陰鬱なものになっていないのは彼らの真剣さの故でしょう。ジャケットのインパクトは(後述する)ケンドリック・ラマーと双璧のアルバムです。
 第5位イノセンス・ミッション「Hello, I Feel The Same」ずっと変わらず、穏やかで暖かな世界を作ってきた彼らのニュー・アルバム。ジャケットも含めて、今までの彼らと大きく違うところはありません。でもそれがユニークで貴重なのです。実はこのアルバム、僕は現在アナログはおろかCDも手元にありません。実は本国の公式サイトで限定盤のアナログを注文したんですが、本国での発売が大晦日なんだそうで、到着までしばらくかかりそうなのです。ではなぜ内容を知っていてこうして書けているのか。それは公式サイトでのアルバム購入者に特典として「配信音源ダウンロード」のサービスがあったからなのです。嬉しいことにフォーマットが複数用意されていて、ユーザーも複数のフォーマットをダウンロードできるようになっているので、iPod用にmp3、自宅のユニバーサルプレーヤー用にFLACファイルをDLしました。どんなフォーマットで聴いても、この心地よい音楽世界は不変です。寡作な彼らのアルバムを年間ベストに入れられる幸運に感謝しつつ、第5位を進呈します。
 第4位 ブラー「A Magic Whip」。もう手にすることはないだろうと思っていた「ブラーのニュー・アルバム」を2015年に手にできる幸福。本当に嬉しいです。昨年1月の武道館公演はファンとバンドの熱い「思いの交換」という趣きでした。このアルバムは一転、かつてのような聴いた瞬間がっちり気持ちをつかむようなポップチューンはありませんが、それが聴きこむにつれて良さがわかってきます。年齢を重ねたプリットポップ。こういう成熟もまた、ポピュラーミュージックのひとつの真実です。スタイルではなく、精神においてのモッズ、僕は心から愛します。
 第3位 ミューズ「Drones」。今年はシリアスなコンセプトを持ったアルバムが多くリリースされました。9.11以後の世界というよりも、さらにその先の混迷混乱に材を採ったもの。ミューズのこのアルバムもそのひとつですが、ロック系の作品としては珍しく直球的な描き方です。ジャケットも歌詞も、ほのめかしなし、深読みや解釈の余地なしです。特筆すべきは、そんな率直な「社会的な視点」を持ちながら、エンタテインメント性も持ち合わせているところ。今年出たロック系のアルバムでは最高といっていい、「聴いていて楽しめる」アルバムでもあります。いや本当に、聴いていると盛り上がります。これこそロック、鉄拳のパラパラBGMだけじゃないよ、堂々ベスト3入りです。
 第2位 ケンドリック・ラマー「To Pimp A Butterfly」。ファーガソン事件以来の、いや、21世紀になっても終わらない差別と格差に蝕まれた世界、そこから生まれた傑作。僕のようなヒップホップ系の音楽にも疎い人間にさえ伝わる真剣さ。そして(ミューズと同様)徹底した大衆性。高い社会性と切り込むような眼差しを持ちながら、聴いていて最高に楽しい!様々な言葉でアメリカ社会に物申しながら、素晴らしいポップさも持っています。これはディアンジェロの「Black Messiah」にも共通する美点かな?ジャケット・デザインのインパクトも最高得点。グラミー11部門ノミネートという大作。本当に最後までトップにしようか迷う、第2位でした。
 第1位 ベル・アンド・セバスチャン「Girls In Peacetime Want To Dance」。素晴らしいケンドリック・ラマーをかわして第1位になったのは、個人的な思い入れの差でベルセバでした。ダンスミュージック方面にシフトしたという事前情報があり、ジャケットの見た目も含めて聴くまでちょっと不安だったんですが、聴いてみたらまさしくベルセバでした。新らしい要素があり、新しい視点があり、でも根幹は不変。このバンドは駄作凡作がない、若干小ぶりだけれど素敵なバンドだと思っていました。それがここまでキャリアを積んで、このレベルの作品。今年2月に新木場で観たライヴも、新旧の作品を取り混ぜ、変に気張ることのない、いいステージでした。このバンドは秋にライヴ・アルバムも出ましたが、地元グラスゴーで、1万人ものオーディエンスを前にしてのパフォーマンスをやっており、そこでもこのバンド特有の「手作り感」が健在だったのが嬉しかったです。こういうバンドにも、自分たちの活動を続けていってほしいな。この1年このアルバムに幸せにしてもらいました。感謝をこめて第1位です。
 惜しくも選から漏れたものにはトッド・ラングレン、ウルフ・アリス、ディアンジェロ、パブリック・イメージ・リミテッド、SOAK、テーム・インパラなどがありました。作品の質ということではなく、10枚選ぶという行為のなかで漏れただけなので、どれもいい作品であることは間違いありません。興味があったのに未聴になったものはビョーク、アデル、ノエル・ギャラガーキース・リチャーズ、ナッシング・バット・シーヴスなど。オジサンがお小遣いでチマチマ買っているので、追いつかないのよ、今年の後半はポールとビートルズで散財しちゃったし(涙)。それから、入手して聴いたけれどランク入りしていないものにコールドプレイの「A Head Full Of Dreams」があります。もちろん大好きになりましたが、いかんせん聴きこむ時間がない。どの順位に入れていいのか判断できない、というわけで、ランクから外しました。残念!
 昨年も同じことを書きましたが、業界全体の経済状況に関してはあまり明るい話題はありませんし、コンテンツ産業がこの先どうなるのかも不明な部分が多いようです。ただ、それはそれとして、様々なフィールドから力のこもった作品が出てきました。有望な新人、変化を遂げた中堅、キャリアに相応しい作品をものするベテランが今年も世界を彩りました。こういう音楽が生まれて来る限り、業界はどうあれ、音楽家とそのファンにとって未来は明るいでしょう。来年はどうなるかな?本当に楽しみです。