アルバム評 クイーン「Queen Rock Montreal」

 ちょっと前ですがクイーンのライヴが(CD、DVDともに)出ていましたね。いろいろ物いりの時期だったのと、慌てて買わなくても市場から消えることはないはずだからと思って後回しにしていたんですが、昨年末についに(CDを)購入しました。1981年秋、モントリオールでの実況録音。「Hot Space」リリース前の時期で、セットリスト上の最新曲は「Under Pressure」です。このコンサート自体は、過去に映像作品として数回リリースされたものですが(僕は未見です)、今回はCDとしても発売され、当然ですが音質の向上が期待できます。実はこのライヴの10ヶ月ほど前に彼らは来日していて、その時のコンサートは観ています。このライヴはそのときのセットに近く、個人的には思い入れしやすい作品です。さて、どんな感じか?
 結果から書きますと「すごい」の一言です。「On Fire」が素晴らしい出来だったので、あれに匹敵するものを出すのは大変だろうなあとぼんやり思っていたんですが、とんでもない、あれを遙かに凌ぐクオリティでした。このグループの場合、楽器演奏に関しては定評あるところで(実は細かく書くとちょこちょこミスはあるんですが、力づくで立て直してしまいます。そういうところも含めてすごいと思います)そっちは「事前了解」済みですが、それにしてもみんな見事な演奏。時期的に近いために「On Fire」と曲がダブりますが(「On Fire」はこの作品の翌年のイギリスでのライヴです)、演奏のレベルはこちらの方が高いです。特に「The Game」からの曲はどれもその後のライヴ盤以上の演奏を聴かせてくれます。「Now I’m Here」もイントロ間違わってないし(笑)。「Dragon Attack」はフレディがちょこっとトチるんですが(サビに入り損なう)、バンドの絶妙なフォローで逆に曲の迫力が増していきます。デビュー曲「Keep Yourself Alive」はスタジオテイクや「Live Killers」よりも(若干ですが)ファンキーなリズム処理で、この時期の「ファンク路線」をちょっと予感させるようです。逆にあの「Another One Bites The Dust」はスタジオも含めたどのテイクよりもリズムがきちっとしていて(あくまでニュアンスですが)、彼らの黒人音楽カラーが「自然にできた」ものではなく「明確な意志を持ってやり遂げた」ものなんだということが窺えます。
 そしてなにしろこれは特筆しなければなりませんが、フレディの声の調子が本当にいい!歴代ライヴ盤で一番と断言できるでしょう。これを聴いた後では、「Live Killers」は聴けないです本当に。もちろん高音部でロジャーに助けてもらうところもありますが、歌のうまさ、表現力も含めて、ロック界で誰も到達できない境地の歌声です。「Bohemian Rhapsody」でのフィレディの声は、今まで聴いた同曲のどれよりも力強いです(このときにモンセラ・カバリエとの競演が実現していたらなあ)。曲が終わったあとフレディが「Anyway The Wind Blows…」と語るのも胸に迫ります。
 選曲はこの時期の典型的なものですが、今の時点で考えると、ある意味クイーンの全盛期といっていいものだと思います。この後取り上げられなくなる初期の曲も多く、僕くらいの年齢のファンにとってはうれしい限りです。個人的には「Flash」と「The Hero」の2曲の収録がうれしいですね。81年の冬に日本武道館で観たときに観た「Flash」は、稲光のような演出も含めて震えが来るようなものでした。音だけでもこうして追体験できるのは最高のプレゼントです。そして「Crazy Little Thing Called Love」。この曲、過去2回ライヴ盤に収録されていましたが、なぜかいつもリズムが狂う、というかフレディが弾くイントロのギターが早すぎて歌が始まると同時にテンポが遅くなってしまうんですが、今回やっと、ちゃんと最後までインテンポでやってくれます(スタジオテイクよりもかなり早いものですが)。明るい、いい曲なので(しかもクイーンの曲としては格段に曲の形式が単純)今までずっと残念に思っていたんですが、これでスッキリ!です。余談ですがラストの「God Save The Queen」は、今までのライヴ盤では(テープで流れる英国国歌に合わせて)観客が大合唱だったんですが、この盤でだけ歓声は大きくても歌声にならないのは、やっぱりモントリオールという土地柄なのかも知れませんね。もちろん大喝采なので問題なしですが、ちょっと面白いです。
 音質も文句なしで、僕としては大満足のこのアルバムで唯一「うーん」と思ってしまうのはジャケットです。今ではもうこういうデザインでしょうがないのかなあ?でも逆にフレディ存命中だったら絶対にこういうものはなかったと思います。クイーンはいつも必ず、グループが一体であることをアピールしていましたから。これだけが残念です。僕はあまり映像作品には手を出さないんですが、DVDも買ってみようかな。そんな気になるほど素晴らしいライヴでした。

伝説の証/クイーン1981

伝説の証/クイーン1981