ジョージ・ハリスン「Let It Roll」に勝手な妄想

 さて、昨日購入したジョージ・ハリスンのベスト「Let It Roll(オール・タイム・ベスト)」です。邦題にあるとおり、アップルとダークホースの両レーベルから選曲されたもので、ある意味待望久しいものです。
 なんですが、と書き出して、きっとジョージのファンのみなさんなら同じ思いの方が多いと思うんですが、選曲が、なんというか微妙なんですよね(ロッキング・オン松村雄策さんも同じようなことを書かれていましたね)。初めてのジョージ名義のアルバムに収録された「I Don’t Want To Do It」や最近は入手が困難になっている(らしい)「Cheer Down」のスタジオテイクなどは収穫といえますが、どうも「やった!」と思えないものです。こういう編集盤の宿命ではあるんですが、「選に漏れた名曲」が多いということ、なのになぜか「Brainwashed」から3曲も収録されていること、アップル時代のスタジオ盤2枚(「Dark Horse」と「Extra Texture」)が完全にオミットされていることなど、偏りを感じるものになっています。バングラディシュのコンサートからこれまた3曲、しかもすべてビートルズ時代の曲だというのもなんだか腑に落ちません。出来がよくないという意味ではなく、ここに(ソロ時代のものとはいえ)ビートルズを持ってくる必要があるのか、ということに引っかかるのです。ジョージはアップル時代のベストでもアナログA面をビートルズの曲にされた悲しい過去があるんですが、ちょっとそれを思い出してしまいました。選曲はハリスン夫人であるオリビアさんがされたということで、あんまり強くも言えないような感じですが、それにしてもすっきりしないなあ、とモヤモヤしてしまうのです(もちろんオリビアさんに他意や悪意はありません)。
 僕が購入した国内盤のライナーには「過小評価」という言葉が書かれています。ジョンとポールが同じバンドにいたために比較されてしまったこと、ギタリストとして「最も過小評価されているギタリスト」第4位(ローリング・ストーン誌による)に選ばれたこと。僕たちはもう何回こういう話しを聞かされてきたでしょう。そういう時代はとっくに過ぎたと思っていたのに、まだこの段階なんでしょうか?
 実際に聴くと、決して悪くないです(あたりまえか)。「Got My Mind Set On You」から始まるなんてワクワクしますし、「Ballad Of Sir Frankie Crisp」(アルバムタイトルはこの曲に由来していますね)にはハッとさせられます。特に後半、「When We Was FAB」からラストまでは流れや編集も良くて、本当に感動的です(「FAB」のエンディングに「Something」の歓声がかぶってくるところなど絶妙です)。「Isn’t It A Pity」はエンディングの編集が「All Things Must Pass」とはちょっと違っていました。それが余韻になっていて、締めくくりとしてもいい感じです。細かい発見はまだまだあるのかも知れません。そういう部分だけを見ていけば、まあオーライな編集盤です。
 でもこれでは足りない、と僕は思ってしまうのです。上に書いたように、ジョージにはいつも「過小評価されてきた」という形容詞がついていました。これは僕のようなファンにもそういう傾向があったためです。そろそろそういう形容詞をはずしてあげたい。決定版的なベストを出して「どうだ、これを聴いたら誰でもわかるだろう、ジョージ・ハリスンは偉大なソングライター、歌手、プレイヤーなんだ」と証明したいのです。それにはやっぱりこの選曲では足りないのです。
 僕が昨日から考えているのは、「アップル編」「ダークホース編」の2枚組もしくは2枚同時リリースです。アップル編の(というか、ベストの)1曲目はずばり「Wah-Wah」で。ジョージを軽く考えている人にカマシてやります。以下、曲順や選曲は深く考えていませんが、ヒット曲以外にも「If Not For You」「Beware Of Darkness」「Don’t Let Me Wait Too Long」「Ding Dong」、「You」「Can’t Stop Thinking About You」など、無視されがちな名曲を選曲します。もちろん「Bangla Desh」のスタジオ版もね。ダークホースだとやっぱり「Pure Smokey」「Faster」「Unconsciousness Rules」「Teardrops」は絶対に入れて欲しい。個人的にはぜひとも「This Song」に光を当てて欲しいですね。ジョージ自身もあんまり振り返りたくない過去なのかも知れないですが、実にポップな佳曲です。そろそろ放免してあげてもいいんじゃないかなあ?
 ライヴテイクはバングラディシュから「Awaiting On You All」など。あの「Live In Japan」からもなにか。個人的には「Dark Horse」を入れると、「アップル編」にスタジオテイク、「ダークホース編」にライヴテイクが収録されることになり、聴き比べができると同時にジョージの人生における重要なキーワードを強く印象づけることもできると思います。今回は絶対にビートルズ時代の曲は選びません。そんな必要ないですから。ソロになってからの曲だけでCD2枚くらい軽く埋まります。マニア向けのレアテイクは、74年の北米ツアーから何か、それから91年日本公演で横浜のみ演奏した「Love Comes To Everyone」をぜひ入れたいですね。例の「Somewhere In England」の没テイクも入れられるかなあ、初回限定で4曲入りボーナスディスク付けましょうか?
 ジャケのデザインですが、「アップル編」「ダークホース編」ともにギターを弾くジョージの写真(か、ロン・ウッドかクラウス・フォアマンに頼んで絵を描いてもらいましょう)「アップル」は北米ツアーの、「ダークホース」は日本公演のものを基本に。写真はジャケ全体の大きさではなく上品にレイアウトして、写真の周りの色は「アップル」は深い赤、「ダークホース」は深い青。いわばジョージの「赤盤」「青盤」とでもいえるような統一感のあるものにして。
 なんだか妄想が広がって収拾がつかなくなってきちゃいましたね。せっかくオール・タイム・ベストが出たのに、そしてそれなりに感動しながら聴いているのにこんなこと書いてすみません。でも、あくまで個人的にですが、これではまだまだ決定版とはいえないのです。アップルとダークホースとパーロフォンのロゴが並んでいるブックレットの背表紙を見ただけで胸がいっぱいになる僕のようなファンが「すみませんでした、文句ありません」と言えるような素晴らしいベストを、いつの日か手にしたいです。

オールタイム・ベスト

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