僕のとっての「心からの癒しソング」

 先日ロッキング・オンが出したローリング・ストーンズの本を読みながら、ストーンズを聴く日々が続いています。いつものことですが、すぐに影響受けるもんですから(笑)。なかなか面白い本ですがひとつだけ残念な点が。数本在るインタビュー、全部ミックかキースのものなんですよ。せめて他のメンバーのものも1本ずつくらい入れて欲しかった。特にロニー・ウッドについては1990年の初来日時にロッキング・オンが行った感動的なインタビューがあったはずで、当時のミックとキースの確執と和解についての貴重な証言でもあったはずです。ぜひ載せてほしかったなあと思います。
 ところで、みなさん「一番好きなローリング・ストーンズのアルバム」ってなんですか?どんな回答にもそれぞれの説得力があるかと思います。で、僕ですが、好きなアルバムはたくさんありますが「一番」と問われたときの答えは決まっています。「Let It Bleed」です。
 「Let It Bleed」は正反対の個性を2つ兼ね備えたアルバムだと思います。血なまぐさい表情・荒々しさと、限りない優しさと。血なまぐささの方は説明不要ですね。「Gimme Shelter」「Midnight Rambler」を代表とするあの感じ。僕は巷間言われるほど「Beggars Banquet」をアーシーだとは思わないのですが(「悪魔」と「路上闘争者」がそういうムードなのでそう思われがちですが、全体的にはあのアルバムは非常に美しい曲ばかりだと思っています)「Let It Bleed」にはそういう部分を強く感じます。そして限りない優しさの方は、あの「Love In Vain」「You Can’t Always Get What You Want」に感じます(以上、わかっていただけると思います)。そして僕がその優しさを一番感じるのがタイトルナンバーである「Let It Bleed」です。
 この曲の歌詞は基本的にずっと同じパターン「誰だって○○したい相手が必要なんだ/望むのなら俺がその相手になってもいいんだよ」というもの。○○の単語はいくつも出てきますが、全体として言わんとするところは結局「本当に大切なのはあるがままの自分でいられる、心から頼れる人なんだ」ということです。これを執拗に繰り返しながら途中でこんなことを歌っています。
 「彼女は言うんだ『私のおっぱいはあなたのために開けておくわ/疲れたときは顔をうずめていいのよ/私の身体にはあなた専用の駐車スペースもあるの/コークを少し、そして少しでも誰かと寄り添いたいときはいつでもどうぞ』」。僕はこのヴァースに心から感動します。字面のブルース的な俗っぽさと同時に、とんでもなく切ない祈りを感じて。露骨にセックスを連想させる歌詞なのに、そこにあるのは露悪的なムードではなく「受け入れられ、自らも受け入れる」限りない優しさです。この時期のストーンズには「Salt Of The Earth」や「Wild Horses」など、暖かい眼差しの名曲がありますが、「Let It Bleed」もその1曲だと思います。
 この曲は最後「誰だって血を流す相手が欲しいんだよ/もし望むなら、俺の上で血を流してくれていいよ」と繰り返します。「血を流す」という言葉からストーンズらしい呪術的なものを感じる人もいるかも知れませんが、僕は逆です。血を流してくれていいんだよという言葉に「あなたがどんな人だろうが、僕はすべてを受け入れるよ」という優しさを感じます。実際の演奏もしっとりしたもので、他の収録曲にありがちな攻撃性はまったくありません。僕は勝手にこの曲のセンスはミックのものだと思っていますが、ふてぶてしい表面とは裏腹な繊細さと優しさは、僕の感じる「ミック・ジャガー」そのままです。
 最初に書いたように、僕はアルバム全体で大好きで、どのセンスにも愛着があります。悪魔的な部分も、ロバート・ジョンソンに対するリスペクトも、一風変わったファンクネスも、そしてあのジャケットデザインに代表される一種の「濃厚さ」も。でも一番惹かれ、感動するのはタイトル曲「Let It Bleed」です。変な表現ですが、癒されます。ヒッピー・ムーブメント的な価値観からは距離を置いた発言を繰り返しているストーンズですが、決して冷笑的でも暴力的でもなく、ある意味当時のどんな意匠よりも「理想主義的」な思いを持っていたのかも知れません。いや、僕はそう感じます。「Let It Bleed」という曲を聴くたびに。

Let It Bleed

Let It Bleed